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石川直樹さん写真展『この星の光の地図を写す』に行ってきました。

東京オペラシティアートギャラリーにて開催中の写真家・石川直樹さんの写真店に行ってきました。個人の撮影したものでこれだけの規模の展示はなかなかなく、作品数も400点以上の充実ぶり。しかも僕がいった日はご本人が来館してのギャラリートークもありというモリモリな展示日でした。

(※ギャラリー内も撮影可能でした)

 

www.operacity.jp

 

僕は10年前には1人で北アルプスにでかけて、大キレットを踏破するくらいには山登りをしていた人間で、山野井泰史さんが個人的なヒーローでした。新田次郎、長谷川恒夫、植村直己、クラカワーなどの山行記、冒険譚にハマっていたこともあり、石川直樹さんのこともその延長線上にいる人間として知っていました。

 

世界中の高峰に登り、極点間を縦断し、環太平洋を巡り、古代の人々が洞窟に遺した壁画にレンズを向け、まさに世界を股にかけて写真を撮り続けている石川さん。しかも、メイン機はデジタルではなくPlaubel makina67(プラウベル・マキナ)という中判フィルムカメラ。フィルムカメラスキーとしては、もうとんでもない雲の上の人です。まさに雲の上に何度も行った人でもありますが。

 

nikomat.org

重たくてデカい(重量は1kg以上あります)うえに、フィルムの管理もしなくてはならないこのカメラをなぜ使うかといえば、ほぼ無尽蔵に撮れるデジタルと違って、1枚1枚に思いがこもるからとのことでした。

フィルム管理のたいへんさを物語るエピソードの一つとして、極点に近い場所で氷河を撮影した際に、フィルムの乳剤が凍ってバキバキになり、それが現像時にナゾの線になってしまって出てしまったとのエクストリームな話をされていました。

犬ぞりを使って極寒地を移動する際の写真はブレブレです。これはなぜかというと、犬ぞりというものは振動がひどくて、片手でそりにつかまってないとふるい落とされてしまうため、片手だけであのデカいカメラを操作したため、ピントも合わず、荒れてブレてしまったからとのことでした。

写真家として意図的にアレブレを狙うという表現があるのは分かりますが、石川さんのアプローチはそれとはまたちょっと違っていて、目指すところは「みたものと自分との関係性を撮っている」からとのことでした。

例えば犬ぞりに乗ってそれなりの技術的、機械的なサポートがあればいくらでもきれいな写真を撮影することは可能でしょう。ですが、まさにこの「極寒の地で片手でたくさんの犬が引くそりにつかまりながら片手でシャッターを切った」ということにより、その体験は唯一無二のものとして記憶されるからとのことでした。

 

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 K2登頂に挑戦して断念してしまった石川さんは、「せっかくだからK2はだめでもブロードピーク(世界で12番目に高い中国とパキスタンの間にある高峰)に登ってそこからK2を撮ろう」と、8000m級の山に登りなおして、K2を水平方向から撮るというということに成功しています。

このアングルからK2を捉えた写真は少なく「こっから撮った写真て珍しいんですよ」ということがわかってもらえたらなあとのこと。

 

 

K2を美しく撮影しようと思えばまた別の手段が(とんでもなく困難は多いでしょうが)あるのかもしれませんが、この「登頂には失敗したが、別の高峰からK2を撮る」という体験は、ほかの誰にもできない自身の経験として写真に残る。すなわち「自分と世界との関係性を写し撮る」ことになっているのではないかということでした。

人を撮るときでも、自然を撮るときでもこのスタンスは一貫していて、とにかく「いまここにいる自分」が世界の様々な様相を見るために「ここ」をとにかく水平方向にも垂直方向にも移動し続けているということでした。

 

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上の写真にあるように展示はカーテンで仕切られた数個の部屋で構成され、それぞれの部屋のコンセプトによって壁の色も塗り分けられていました。写真の演出のために照明も様々に工夫されています。

特に面白かったのが『NEW DIMENSION』シリーズとして撮影された、古代の人々が壁に残した絵をおさめたものです。赤い壁の部屋の向かって左側の写真では、洞穴の壁や天井に無数の人間の手のひらが象られています。

 

これは「ネガティブ・ハンド」というもので、ある時期に世界に同時多発的に発生したそうです。ちょうど壁に手を置いて、上からペンキを吹き付けると手のひら型の写像が壁に残ります。いわば太古のネガ絵(陰画)で、これは写真の原点といってもいいものなのではないかというお話をされていました。

 

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こちらは太平洋を気球で横断しようとして失敗した際に、気球のゴンドラに積んでいたものとのことです。奇跡的にゴンドラが海岸に漂着し、それを拾い集めたもの。こちらの冒険の様子は『最後の冒険家』というノンフィクションにまとめられています。 

 

 

そして、今回の展示に合わせて散逸していた(石川さんの言葉通りに言えば「どっかいっちゃったり、無くなったりしたフィルム」)フィルムを編みなおし、この展示と同じタイトルを冠した写真集が発売されました。

ちょうどギャラリーショップで購入者へのサイン会もあったのですが、とんでもない長さの行列だったのもあって断念。ほかの本屋で立ち読みしたのですが、素晴らしいです。

 

そしてこちら、『北極カバー版』と『南極カバ―版』の2冊があります。内容は同じですが。2冊を両方買うことはたぶんないと思いますが、どちらかはいずれ購入する予定です。

 

いずれにしてもとんでもなく素晴らしい展示なのでぜひぜひ。自然写真をやる人もポートレートをやる人も、なにか突き刺さるものがあるのではないかと思います。

 

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石川さんが実際に使っていたテントと同じものに入れる体験ブースの前。来場者の皆さんの靴たちが、なにか整然と並んでいたのが面白かったです。