Take your Time,Take your Life

クラシックギター、ソロギター、カメラ、音楽、映画がすきです。

MENU

1枚の写真も発表しなかった写真家 ヴィヴィアン・マイヤーにあこがれて

ヴィヴィアン・マイヤーという人を知っていますか?ヴィヴィアン・マイヤー(1926-2009)は、アマチュア写真家として10万枚以上のフィルム写真を撮影しましたが、それらを1枚も発表することなくその生涯を終えた女性です。

死亡する2年前の2007年に、借りていたレンタル倉庫の維持費を支払うことができなくなり、その中に保管されていた夥しい数の未現像のフィルムがオークションに掛けられました。

落札したのは20世紀のニューヨーク文化を調べていた収集家のジョン・マルーフ。1950年代のニューヨークの様子が収められているフィルムが、半世紀以上の時を経て現像されることになりました。

そしてちょうど10年前の2008年6月にマルーフがヴィヴィアンの作品を写真投稿SNSのFlickrに公表したことから、ヴィヴィアンは「発見され」、一気に世界に知れ渡ることになります。

 


このオークションも倉庫の管理会社が中身を処分するために開いた、いわばガラクタの処分市みたいなものだったといわれています。マルーフはその中に埋もれていたフィルムをたまたま手に入れただけだったのです。

写真を見たマルーフはそのクオリティに驚き、検索するも何の情報もでてきません。なぜならヴィヴィアンは偽名まで使い、人とのかかわりをなるべくもたないように生きていたため、その生の痕跡がほとんど残されていなかったからです。

ヴィヴィアンは内向的で、人付き合いもあまりよくない偏屈な女性だったといわれ、ベビーシッターの仕事で得られるわずかな賃金を得て、孤独な生活をしながら、発表をすることもなく写真を撮り続けました。友達がいた気配もなく、家族と呼べるような人もおらず、結婚もしていませんでした。

彼女は蒐集家というか、モノが捨てられない性格だったようです。新聞を捨てられずに部屋の片隅に積み上げ続けていたり、チケットの半券をずっと保管していたようで、こうしてーー僕らにとって幸いなことにーー膨大なフィルムも残されることになりました。

のこされたわずかが手掛かりをもとに、マルーフはヴィヴィアンの遺したフィルムをさらに買い集め、少しずつ公表していっています。このマルーフによる数奇な発見と運命はドキュメント映画にもなりました。

www.youtube.com

現像せずに、発表もせずに、ただひとつのレンズとなって写真を撮り続けたヴィヴィアン。承認欲求にがんじがらめにされ、「いいね」の海にどっぷりとつかって右往左往するわれわれとは対局の生き方。その生は、ひょっとしたら現代においてこそ、よりその輝きを増していくのかもしれません…彼女の写真がまさにSNSによって拡散され、日の目を見ることになったことは皮肉ですが。

 

ローライフレックス

ヴィヴィアンが主に使っていたのはローライフレックス製(カメラ好きにはローライという愛称で呼ばれています)の二眼レフ(ピントを合わせるレンズと写真を撮るレンズがあるので二眼)で、この映画を見て僕もボロッちい中古のローライを買ってしまいました。

f:id:kentarot:20180606204911j:plain

「ローライフレックススタンダード」というカメラで、型番からすると1938年製。まさにヴィヴィアンが生きていた時代からあるカメラです。専用のケースがついて30000円弱でした。

ピントレンズはちょっと曇っていますが、テイクレンズはそこそこキレイで、何よりも80年の時を経てちゃんと動きます。1938年と言えば、ヒトラーがオーストリアを併合したりして、ヨーロッパの覇権争いが激化していた年ですが、これが当時のドイツの技術力の高さなのでしょうか。

 

写真集

そして、ヴィヴィアンの写真集も買ってしまいました。このご時世、探せばネットでいくらでも写真を見ることは出来ますが、やはり紙に印刷されたもので写真を見るという体験は何物にも代えがたいものです。

f:id:kentarot:20180606211024j:plain

ヴィヴィアンの写真集はいくつか出版されていて、神保町の写真集が豊富な古本屋や書店で立ち読みしましたが、Herper Designから出版されている"Vivian Maier: A Photographer Found"がオススメです。タイトルはfinding(探す、求める)とカメラのfinderにかけてあるのかもしれません。

タテ32.5cm、ヨコ27cm、厚さ3cmという、鈍器に使えるんじゃないかというサイズですが、入手できるものの中では作品数が多く、プリントもきれいです。ばったり出会ってとっさに撮ったのか、ピンボケしている1964年のオードリー・ヘプバーンの写真なども収録されていて、ちょっと微笑ましいです。


もし興味があったら、写真集と映画『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』をぜひ見てみてください。そしてこの数奇な写真家の運命と、その生のもつ意味に思いをはせてみるのも面白いかと思います。

なにより、こんなすごいことが実際あるんだなーとビックリします。もしかしたら第二、第三のヴィヴィアンが、今日も誰に知られることもなくシャッターを切り続けているのかもしれません。

(下の写真はローライを買ったばかりの時に撮ったもの)

 

f:id:kentarot:20180606200341j:plain

(Rolleifrex standard,fuji neopan across 100)