さてさて『さらば青春の新宿JAM』効果で手に入れたBarbour(バブアー)のBeaufort(ビューフォート)オイルドジャケットですが、こちらは名前の通り、オイルを塗ったくって防水性と防風性を高めたジャケットです。(いかにしてBarbourのオイルドジャケットを買うに至ったかは下記をご覧ください)
オイルが塗ってあるということはどういうかというと、独特の質感や色合いはかっちょいいのですが、それと引き換えに表地はベタベタしていて、オイル独特のなんともいえないニオイがします。
「何ともいえないニオイ」というのはだいぶオブラートに包んだ言い方で、一言でいうとクサいわけです。しかもこのオイル生地、ふつうにさわるだけで手にオイルがつきます。すなわち触れたものにはオイル移りしてしまいます。
イングランドの優雅な山間(そんなところあるのか知りませんが)でハンティング時に羽織るにはいいのでしょうが、この東京という街で気兼ねなく着るということは、たいへん難しい代物です。(実際に公共交通機関などの人が密着する場では、脱いで裏返しておくことが薦められています)
しかも脱いで何とかなるのはオイルのべたつきだけで、経年変化による酸化によって生じたオイル臭はどうにもなりません。僕も家に持ってかえってきたときは興奮もあって「ニオイなんてなんとかなるじゃん」と思っていたのですが、同居人の「クサすぎ!」との指摘に、紙袋にいれたまましまっておくことを余儀なくされてしまいました。
買ったはいいけれど手放してしまう人も多いことで有名だったりする曲者でもあるのですが、このオイルドジャケットを日常生活に取り入れていくには、いくつかの方法があります。
1.クリーニングしてオイルを抜き、ふつうのコットンジャケットとして着る
2.クリーニングしてオイルを抜き、無臭のオイルをリプルーフ(塗りなおし)する
3.ガレージなどにつるしておき、人が集まるようなところでは着ない。
3などは「男の隠れ家」的なガレージや別荘などラグジュアリースペースがある方はいいのですが、23区のマンション暮らしとしては難しい話で、残る選択肢は1と2になります。ところがこちらのジャケット、そもそもクリーニング全般が推奨されていないため、通常のクリーニング屋さんではだいたいお断りされるそうです。
同じ悩みを抱えているBarbourオーナーのために、専用のクリーニングを受け付けている業者もあるのですが、こちらはお値段が12000円~(プラス往復の送料)と目の玉が飛び出るほど高く、また受け取りまでの期間も一か月くらいかかるところが多いようです。
ではどうするか?
自分で手洗いするという選択肢があります。というかそれしかないわけです。
ネットで調べると、先人たちの苦闘がちらほらと見つかるこの「Barbour オイルドジャケットのオイル抜き」。迷った末に僕も挑戦することにしました。以下はジャケット洗濯の奮闘記になります。
(※タグに書いてある「Barbour Care」にある「やっちゃダメ」ということをすべてやっていくことになります。あくまでカスタムやリメイクの範疇のこととご理解ください)
■ 用意するもの
・ジャケットが丸ごとつけられるバケツorタライ
・油汚れに強い作業着用の洗剤
・ナイロンブラシ
・ゴム手袋
・大量のお湯
・折れない心
赤羽のビバホームと近所の百均で買いそろえたものです。バケツが798円、作業着専用洗剤「WORKERS」が398円でした。ゴム手袋、ナイロンブラシはそれぞれ108円也。
つけおき洗いするので、バケツはなるべく大きいものをオススメします。僕の場合は22リットルのバケツでやりました。またオイルを含んだお湯が飛び散るので、汚れてもいい格好でやるのをオススメします。
■手順
1.洗剤を入れたお湯に30分間つけおき
2.つけおいたものを10分間手もみ洗い
3.手もみ洗いしたジャケットをバケツから出して、風呂場の床などに広げ、洗剤をじかにかけてブラシでゴシゴシ洗う。(20分くらいかかります)
4.バケツにお湯をはって3,4回すすぐ(毎回お湯を取り換える)
1~4を3回繰り返す。
カンタンでしょ?ではさっそくやっています。
いろいろ調べたところ60℃のお湯につけるのがいいとされているので、お風呂などでお湯をなるべく高温(僕が住んでいる物件だと48℃が再高温でした)にしてバケツに半分ほど入れます。そこにヤカンなどで沸騰させたお湯を2リットルくらい足して、なるべくお湯の温度を上げます。60℃にはたぶん達しないと思いますが、細かいことは気にせずにやっていきましょう。
バケツのお湯に作業着専用洗剤「WORKERS」を2キャップぶんくらいいれたら、ジャケットを躊躇なく沈めていきます。沸騰したお湯を入れるときにはやけどに注意してください。(ちなみにバケツの湯量に対しては洗剤1キャップでも多いくらいですが、気にしなくていいかと思います)
30分ほどつけおきしたら、手もみ洗いしていきます。ゴム手袋の指先が見えなくなるほどオイルが落ちているのがわかると思います。手もみ洗いを10分くらいやるのですが、水を吸ったジャケットはめちゃくちゃ重くて腕がパンパンになります。
1回目の手もみ洗いが終わった後のお湯です。オイルや汚れが落ちて真っ黒になっています。入念にオイルが塗られているのかわかります。
手もみ洗いが終わったら、お風呂場の床など平らなところにジャケットを広げ、同じく作業着専用洗剤WORKERSをかけて、ナイロンブラシでオイルの浸透している表地をゴシゴシと洗っていきます。お風呂の汚れは後で考えるとしてひたすらゴシゴシです。
オイルドジャケットはコットンジャケットにオイルを塗っているだけなので、ナイロンブラシでゴシゴシやったら繊維を痛めてしまうのでは?と心配していましたが、そこはさすがのBarbour。ガンガン洗っても毛羽立ちもせず、ほつれもせず、まったく痛みません。これにはちょっと感動しました。
というわけで小学生の時に上履きを洗ったようにガシガシとブラシで洗いました。ブラシで洗う際には、前身ごろ、袖、襟裏、などパーツに分けてやっていくといいかと思われます。(どこを洗い終わって、どこをまだ洗ってないのかがだんだん分からなくなってくるので)
20分ほどゴシゴシ洗いをしたらシャワーなどで泡を流して、ふたたびバケツにお湯(熱湯を足してないもので大丈夫だと思います)をはり、すすぎをしていきます。すすぎの回数はよくわからないので、とりあえず3回お湯をはり替えてすすぎをしました。この間に2セット目のつけおき用のお湯を沸かしておくと、次の作業にスムーズに移れると思います。
ここまでの「つけおきー手もみーブラッシングーすすぎ」が1セットで、これを3回くらい繰り返します。1セットのプロセスが60分~90分くらいかかるのではないかと思いますが、心が折れないようにひたすらがんばります。
3セット目のすすぎ作業中です。湯中のゴム手袋が認識できて、1セット目よりだいぶお湯が澄んできているのがわかるかと思います。(ちなみに二度目の揉み洗い中にゴム手袋が破れてしまったので、ゴム手の中はすでにグチョグチョです)
家庭での手洗いでオイルを落とし切るのは難しいと思いますので、回数や作業時間などを目安にして、適当に区切りをつけて作業するのがいいかと思います。というかいつまでもお湯が濁るので、テキトーに諦めざるを得ない状況になると思います。
3セット目のすすぎが終わったら、できるだけ押したり叩いたり絞ったりして水分を取ります。そしてこれから脱水の準備をします。
裏返しにしてファスナーを閉めて、ジャケットを折りたたんで、バスタオル2枚をつかってジャケットをくるみます。これは脱水の効率をあげるためと、ジャケットの表地を痛めないための処置(のつもり)でやっています。
さらにジャケットをバスタオルに包んだものをまるっと洗濯用ネットに入れて、洗濯機の脱水にかけます。ちょうど小ぶりのクッションのような形で脱水にかけることになります。ネットに入れるのは、脱水中にジャケットがバスタオルから飛び出てしまうのを防ぐための処置としてやりました。
注意しなければならないことは、このクッション状の重たい綿のカタマリを脱水にかけることは、脱水時に発生する遠心力からとんでもない振動を発生させることになり、場合によっては洗濯機が壊れてしまうこともあるらしいです。
脱水がスタートして洗濯機が本格的な回転を始めるころには、ちょっと尋常ではない振動になります。ひょっとしたら洗濯パンから飛び出してしまうんじゃないかと怖くなって、洗濯機につきっきりでその両肩を両手で押さえていました。
僕が持っている洗濯機は中国の「ハイセンス」というメーカーの一番安い全自動洗濯機で、こちらは脱水が2分からしか設定できないモデルなのですが、この120秒が異様に長く感じられました。
「はやく!はやく!終われ!」と祈られずにはいられない轟音で、もしもう少し振動が激しくなっていたら「停止」ボタンを押すかコンセントを引っこ抜こうかと思うようなハードなヴァイブレーションでした。
というわけで洗濯機を使った脱水作業ですが、1分単位でタイマーセットできる洗濯機をお持ちなら、1分単位でやることをオススメします。また緊急時に備えて、洗濯機の前にはりついての作業をオススメします。
永遠とも思える長い120秒間が終わって洗濯機の回転が終わったらジャケットを取り出してみます。バスタオルが水分を吸ってくれたおかげで水分もだいぶ飛んでいました。ファスナーを開けて表地をチェックしてみたところ、特に繊維が傷んだりしてる部分も見当たらず、とりあえずの作業は終わりなので、ふたたび裏返して12月の寒空の中に干します。(本当は平置きしての陰干しがいいらしいですが、細かいことは気にしない)
洗濯機が脱水を頑張ってくれたせいか、2時間くらい経ったら表地がだいぶ乾いてきて、オイルが抜けた状態でのジャケット自体の色合い(いちおうセージ色)がわかるようになってきました。
こんな色になります。気になっていたオイル臭は消えて、作業着専用洗剤WORKERSのにおいがするようになりました。そしてオイルのべたつきも全く無くなっています。
写真でポケットや袖の下部の色が濃いのは、オイルが残っているわけではなく、まだ水分が残っている状態です。ちょうどオイルが入っている時と似たような色合いなので、オイルが抜けたとき色との違いの参考になるかと思います。
細かく見れば多少の抜けムラはありますが、それは「風合い」とか「味」と考えると、健全に生きていけるかと思われます。
そしてオイルが抜けたジャケットは、いわばオールドファンションドなただのコットンジャケットになったので、びっくりするほど軽くなります。同時に防水性や防風性も失われてしまったわけですが、気兼ねなく電車に乗れるようになりました。
実はこの作業、クリスマスイブの午前8:00からセコセコやっていたのですが、気が付けば12:30になっていました。つけおき洗いの時間を含めて5時間弱をオイル抜き作業にあてていたことになります。
東京都の2018年12月現在の最低賃金が時給985円ですので、その手間賃とオイル抜きに使った用具費や大量のお湯のための光熱費、その後の風呂場の掃除にあてた手間を含めると、最低賃金でやったとしても6000円~はかかったことになるでしょうか。
ふむう、安いのか、高いのか…
あまり考えない方が健全に生きて行けそうです。
少なくとも業者さんにお願いして12000円~かかるのは、実はそんなに高くはないのかも…と実感した次第です。
ですが、少なくともこの作業をやると、ジャケットに対してのオンリーワン感というか、愛着が一日にして増すのがわかりました。古着屋さんで買ったどこのだれが着ていたか分からないものですが、もう昔からウチにあるような錯覚さえ覚えます。たぶんこれは業者に出していたら味わえないタイプの感覚なのではないかと思います。
これが味わえただけでもやりがいのある作業でした。
(新品だったゴム手袋は穴が開き、こんな感じに汚れます。封切りしたばかりの洗剤もどんどん使ってしまったため残りがわずかになりました)
ここまでで僕の「Barbourオイルドジャケット オイル抜き奮闘記」はいったん終幕なのですが、実はこの作業は次の作業のためのプロセスにすぎません。
この後の作業としては、最初に述べた選択肢の2にあたる「Barbourのオイルドジャケット専用のワックスをリプルーフ(塗りなおし)する」という手段が一般的なのですが、僕が目指したのは専用ワックスを使わずに防水性と防風性をあげる試みです。
というわけでつづきます。