ノエル・ビリングスリーさんの演奏会に行ってきました。こちらは昨年のスペインギターコンクールの優勝の副賞として開催されたものです。二日前には日本・スペインギター協会(下記)主催でスペイン大使館での演奏会もあったのですが、ちょっと仕事の都合で間に合わなそうなかったので、こちらにうかがうことにしました。
ノエルさんは大阪育ちで中学生からバンクーバーに留学。15歳からエレキギターを独学で始めたのちにクラシックギターに転向し、ロンドンのトリニティー・カレッジ・オブ・ミュージックで研鑽を積まれました。現在は奥様の出身地の沖縄に移住し、沖縄を中心に活動されています。
スペインギターコンクールの前年にはクラシカルギターコンクールでも優勝し、その前年には日本ギターコンクールにも優勝。まさに勢いに乗っているギタリストのひとりです。
ソロのフルコンサートを聞くのは初めてだったのですが、包容力のある音楽と骨太の音でとても心地よい演奏でした。技巧的な曲をバリバリ弾くタイプではなく、音楽の大きさで魅せるタイプの演奏家に感じられました。
特に印象的だったのがブリテンの「ノクターナル」の最後です。ギターを聞く人にはとても有名な曲で、第八変奏には「ドシラソファミ」という下降が執拗に繰り返され、緊張感が凝縮していくパッサカリアがあります。
こちらは処刑台での公開処刑をモチーフにしているといわれています。半ば狂気に満ちたテンションの高まりののちに死(断頭)がやってきて、ダウランドの「来たれ深き眠り(Come Heavy Sleep)」のテーマによる救済がもたらされるという美しいシーンです。
(こんな歌です)
コンクールで若手のギタリストによってもよく弾かれるこの曲。多くの演奏家がこの第八変奏での息詰まる感じと、そののちのダウランドのテーマのとのコントラスト(生と死の対比)を際立だせる表現をしていて、それも非常にまっとうな解釈だと思います。
しかしノエルさんはここを非常に抑制のきいた、緊張させすぎない演奏していて、これが僕にはとても新鮮に感じられました。なんというか、生と死が対立するものではなく、死があくまで生の延長線上にあり、いわば日常の一部であるという表現に感じられたのです。
ご本人に確認したわけではないので、どういう解釈で演奏をしているのかはわかりません。ただ、20代、30代、40代…と死生観の変化が演奏の影響があるような気がして、年齢をある程度かさねた演奏者によるノクターナルをいろいろと聞いてみたくなりました。
(演奏後にちょっとだけ撮らせてもらいました。Leica Q/Summilux 28mm f1.7)
打ち上げはホールそばの神保町の中華料理屋で。ギターの話から沖縄の話から、いろいろうかがって楽しかったです。こんど沖縄のFMで5分ほどの番組をやられるとのこと。東京でも聞けるんでしょうか。
プログラム
・第一部
A.タンスマン バルカローレ
J.ロドリーゴ ヘネラリーフェのほとり
F.タレガ アルハンブラの思い出
E.グラナドス アンダルーサ
F.ソル 魔笛の主題による変奏曲
J.トゥリーナ セビリアーナ
・第二部
B.ブリテン ノクターナル
M.テデスコ タランテラ
G.サンス パバーナ
I.アルベニス アストゥリアス
<アンコール>
ロンドンデリー・エア
(アンコール曲はお父様の母国にちなんでのことでした。武満徹編ではないシンプルなアレンジがしみました)
来年3月にはノエルさんの演奏会を企画しています。こちらも楽しみ!